どっちかではなく『どちらも使う場合がある』
これは利用されるシーンによって適した履物も変わってくるため、「どちらが良い」とは言えません。また、デメリットがあったとしても補う方法もあります。ひとまず、浸水被害を受ける時の状況を考えてみましょう。
- 近くで町が浸水被害に遭っていた。急いで避難しないと…
- 浸水してるが、水深は深くても数cmくらいで済んでいる
- 浸水が激しく、静かにだが徐々に水深が増してきている!
- 山からの土砂と混じって、大量の泥水が道路を覆ってきている
- 堤防から水が溢れ、水深が30cm、まるで道路が川のようだ
- 台風による水害が一段落、泥だらけの自宅を掃除しないと…
つまり、浸水のリスクが高まって避難の必要性が出てから、無事避難できて復旧活動に至るまで、スニーカーまたは長靴の二択ではないという事ですね。
例えば早期避難時や雨の降り始めであればスニーカーでの移動はしやすいでしょう。
近年では天気予報の精度も高まってきており、豪雨になるリスクも本格的に降り始める前から知る機会も増えてきました。被災するのが自宅からとは限らないため、長靴を用意しておきたいと感じていても、勤め先や出張先では長靴を用意しにくいかもしれません。
一方、避難タイミングが遅れて道路が冠水、水深も深いところが出だすような状況でも移動が迫られている場合は長靴が歩きやすくなるとは思います。また、浸水被害後の泥だらけの復旧作業時も長靴があると非常に便利です。
まずはこれが『どっちも使う場合がある』という意味です。
避難行動中に水深が深くなるとどうなる?
水害での避難中に水位がさらに上昇した場合でも、長靴なら大丈夫なのでしょうか…?
それ以上の被害想定だとどうなるのか、YouTubeにて福岡県の岩岳川に設置された実験河川での避難行動実験の記録がありましたのでご紹介いたします。
スニーカーでごりごり歩くぜ!という方も、長靴や渓流釣りに使われるウェーダー履いて防水対策ばっちりだぜ!という方も、結果、どっちも満足に歩けません。
つまり、長靴に履き替えてなおも水が足へジャブジャブ入る時点で、避難行動としては相当困難な状況に追い込まれていると言え、どっちを履いてるほうが正解なのか?という問題ではなくなってきます。なにせ思うように動けないのですから…。
この辺は川遊びしなくても、浴槽の水を張ってみたり浅めのプールで動いてみればわかりますが、人は膝ぐらいまで水につかってしまうと極端に移動速度が低下します。災害時には状況が刻々と変わりますので、その変化に柔軟に対応できる体勢を取れるように避難計画をたてておきましょう。
- 早期避難時はスニーカーでも動きやすい
- 泥水や水深が深めな場所、復旧作業に強い長靴
ただし、どちらの場合も万能ではなく、動きやすさを維持するため工夫や、避難タイミングの見極めが必要。水深が深い場合や流水域ではどちらを利用しても満足に移動する事は不可能。
スニーカーの欠点を補う便利な防災グッズもある
スニーカーの弱点は避難時に水深が出てきてしまった場合や、傘が役に立たないような降水量だと防水性の低さで足が水浸しになってしまう事。もし長靴があれば履き替えたいと感じる方も多いでしょう。そこで雨天用のブーツカバーを用意してはどうでしょうか。
さすがに長靴ほどの耐久度はありませんが、スニーカーの靴底のような加工が施されているタイプのブーツカバーであれば滑りにくく、折りたたんで収納することも可能です。使った後はジップロックや防水ポーチに入れておけばバッグが水浸しにならずに済みます。
ビニール袋なみの軽さな上、使い捨てタイプもあるのでマスク感覚でその都度用意するのも手でしょう。勤め先や出張先にも携帯しやすそうな防災グッズです。
Amazonで「防水 ブーツ カバー」などで検索すると、他社製品もいろいろ見つかりますが、どれも応急措置としてのアイテムに位置づけられているようで、ファスナーも防水仕様でない事も多く、水深のあるエリアや長時間の歩行は浸水してくるかもしれません。
ちょうど良い製品が3000~4000円もする製品しか在庫がなければ、長靴を買ったほうがお得です。なぜなら長靴もそれくらいで良いものが買えてしまうからです。
長靴の利用時は浸水を防ぐ工夫をしておく
下記は当サイトが撮影した防災訓練の一コマですが、写真の救助隊の足元、長靴を見てみてください。訓練なので粘着力が控えめな養生テープ(緑色のテープ)に切り替えてはいるようですが、長靴使用時に中へ泥水などが入ってしまわないようテープでぐるぐる巻きにしてあります。
ビニール袋と組み合わせ防水できる部分を延長させる方法もとれるかもしれませんが、ともあれ、ガムテープ一つあれば長靴への水や泥などの浸入を軽減できます。
上記写真のように大量の土砂や泥まみれの現場、土砂降りの中での移動といったハードな運用でなければ、ガムテープでぐるぐる巻にせずとも履き口をマジックテープなどで軽く縛っておくだけでも効果的です(履き口についているタイプもあります)。
新たに長靴を買って備えるべきなのか?
もちろん無いよりもあったほうが良いです。
避難時に使わなくても泥だらけになる復旧活動にはもちろん、雨天の外出時にも活躍するとは思います。ただし、型崩れしないように家族全員分を用意するとなると、相応の収納スペースを圧迫しますからご注意。この辺は趣味や仕事と兼用できそうなら取り入れやすい防災グッズになりそうですね。
繰り返しになりますが、長靴でヒザに達しそうな水深のある場所を避難するのはかなり難易度が高くなるため、たとえ長靴を買ったとしても避難計画は慎重に立てておきましょう。土砂降りの中、避難所まで何kmも歩く事になった…とならぬように。。。
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メーカーは長靴やボートなどで有名なアキレスよりご紹介。一番最初のアキレス FitPackaシリーズは収納バッグつき・折りたたみ可能な製品で、水深がある場所でもスニーカーよりも動きやすく、持ち運びもできるので普段使いはもちろん、水害への備えとしての防災グッズの活躍が期待できそうです。
ハードな現場に踏み抜き対策グッズを追加
河川のはん濫や土砂災害などで大きな被害を受けた家屋から生成される割れたガラスや釘などが復旧現場や道路に散乱している場合は、靴の中へ頑丈な金属板を入れておく踏み抜き対策が有効です。
金属板が元々入っているスニーカーみたいな製品も販売されていますが、踏み抜き防止インソールだと既存の靴を流用できて便利です。
こういったインソールはいざという時に頼れるメーカーを選びたいので、1952年の創業時から安全靴を製造されているミドリ安全株式会社の製品が良いと思います。「金属板が入ってればいい」という感覚のメーカーさんだと、強度不足で予想以上に貫通しやすかったり、金属板の柔軟性が不足して歩きにくい場合があります。
私たちはどのタイミングで避難しているか?
ここまで書き進めて気になったのが、私たちは実際にどんなタイミングで自宅から避難所や、より高い場所へ移動して避難行動へと移しているのか?という疑問。
これは平時ではなく、非常事態にどんな行動を取りやすいのか知っておかないと、せっかくの備えが備えにならない場合が出てきてしまいます。
一応、行政側の方針として、避難勧告や準備情報で避難行動に移そうとしています。
避難勧告は一般的には実際に被害が出る前に発令される事が多い(※間に合わず被害後に出るケースもある)のですが、避難勧告が出たからといって、市民が同じタイミングで一斉避難している訳ではありません。
参考資料としては平成31年1月8日 兵庫県「災害時における住民避難行動に関する検討会」(第2回)、住民の避難行動に係る各種アンケート調査の概要(7月豪雨)(※PDFファイル)を確認してみました。
避難した理由としては主に3つに集約されており、その内容は下記の通り。
- 避難勧告・指示等の発令(特別警報・警報の発表等を含む)
- 周辺の環境変化(雨の降り方や河川の水位等)
- 人からの声掛け・近隣住民の避難
つまり、河川が溢れそうだったり、家屋への浸水が危ぶまれる降雨状況により避難が開始されていると見られます。近隣からも共に避難しようと声がかかることからも、やはり足元が既に水深30cmみたいな事はなさそうです(すぐ近くに高台とかがあれば別ですが)。
避難する道路状態は川のようになっていないとしても、土砂降りで大きな水たまりが数多く見られたり、マンホールや水路から溢れ気味な状態が想定されるため、「スニーカーで良いんじゃない?」という方も、せめて防水ブーツカバーくらいはあったほうが良いと考えております。
行政側も水深50cm以上の避難行動には難色
前述の動画からもヒザに届きそうな水深での行動の困難さは明確になったとは思いますが、行政側も同じ認識ではあります。明確に50cmなら避難するな!とはアナウンスされていませんが、国土交通省の「水害ハザードマップの作成方法」の資料によれば…、
□浸水が生じている場合や避難が遅れた場合における緊急措置的な対応
氾濫水の流れが緩やかであっても0.5m以上の水深があると大人でも歩行が困難となるこ
とから、浸水が始まった後に移動することは大変危険である。そのため、避難のための十分な時間を確保できない場合や浸水深によっては、予定された避難場所等に避難することが必ずしも適切ではなく、自宅の2階への退避避難や近隣の安全な建物への移動など状況等に応じた避難について記載することは、避難時の事故防止等の観点から重要である。
国土交通省 水害ハザードマップの作成方法(※PDF)
特に被害がさらに拡大する可能性がでてくる避難行動中は、いったん河川から水が溢れ出すと急速に水深が深くなっていく場合もでてきます。浸水にリスクが低い避難所や高台まで距離が高い方は余裕をもった避難行動が必要です。
台風が伴う場合も上陸後の避難行動はかなり困難
直近の事例だと2018年の台風21号が参考になります。
上記は国土交通省 近畿地方整備局 淀川河川事務所がYouTubeで配信している動画で、台風21号による被害を抑えるべく活動されていた時の記録です。
この台風21号は大雨を伴い、高潮も合わさって大阪府に流れる淀川(川幅500m前後)が一時は「決壊寸前か!?」と心配される状態へと追い込まれました。
この時、大阪を襲った台風は最大風速47.4m(気象庁:最強台風21号まとめ 記録的高潮と暴風)にも達しており、この強風下では避難行動はほぼ不可能でしょう。例え車両で避難しても車両が強風で横倒しになるレベルです。
洪水や豪雨によって浸水被害が不安な場合は、台風の時も避難タイミングを逃してしまわないようお気をつけください。
洪水で水深3m以上の想定!何を備えたら良いか?
早めの避難する選択肢は当然あるにしても…、日本国内では浸水時の最大水深がなんと10mを超える可能性が想定されたエリアもあります。水深が10mと言うと3F建ての住宅で自宅が流されずに済んだとしても自宅避難は難しく、3F建ての屋根の登ってやっと水に浸からずに助かるレベルです。
お住いの地域で雨水の排水設備が追いついていなかったり、地盤が低くて雨水が集中しやすい低い地盤では大雨で毎回 水深が10mに浸水しなくとも、ゲリラ豪雨などにより避難が難しいくらいの水害を受けやすい場所ともいえます。
ここまでの浸水被害が大きくなるエリアで避難しそびれると、消防署や自衛隊による救助を待つ状態へと陥りやすく、このレベルの被害想定で個人で現実的に備えられるものとしてはライフジャケット(救命胴衣)になると思われます。
普段は『いやいや、陸地でライフジャケットだなんて…?』とか思われるかもしれませんが、たとえば自衛隊の方々に救出されたときの報道写真を見ても着用されているところは見かける事があるでしょうし、水防団に所属されている方の安全確保のため水防法を改正に伴いライフジャケットの配備が盛り込まれるようになっています。
水防計画作成の手引き
例)水防団員自身の安全確保のために配慮すべき事項の作成例
・水防活動時にはライフジャケットを着用する。
…ほか 10項目
全国水防管理団体連合会 水防計画作成の手引き
ライフジャケットは落水したときにジャケットの浮力ですっぽぬけてしまわないよう、正しい着用方法を解説している動画もあるので、併せてご確認ください。
ライフジャケットの着用方法を解説した動画紹介
ライフジャケットについては落水した際にセンサーが機能して圧縮された二酸化炭素ボンベにより自動的に膨らむタイプもあるのですが、こちらは何年も使わずにいるとセンサーや部材が劣化して落水しても膨らまない可能性が出る(メンテナンス不良など)ので、シンプルな非膨張式ライフジャケットが良いでしょう。
釣りや水辺のスポーツをされる方で高頻度にライフジャケットを使う方はコンパクトな膨張式ライフジャケットも使いやすいと思います。
洪水はもちろん、ライフジャケットによる溺死リスクを抑えられる可能性については下記の研究所での実証実験の結果も参考になります。
・津波による犠牲者を激減させる可能性が開ける
ダミーが50cmの人工津波に巻き込まれ水面に浮上できないこと、その一方で、ライフジャケットを着けたダミーは水中に引き込まれることなく、水面にとどまることができることを画像的に実証し、その水中での挙動を図示することに成功しました。
国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所
特に、南海トラフ巨大地震は太平洋側で広範囲の津波被害が想定されていますので、台風や豪雨による洪水・浸水被害だけでなく、津波対策としてもライフジャケットの導入を検討ください。