すべては「自身の被害想定レベル」で決まる!
これは実際に災害に遭った時、どこまでの被害までをカバーできるように計画するのか?という意味です。
災害によって起こりうる被害は様々ですし、私たちの予算も無制限ではありません。
たとえば下記の被災状況(1)~(6)を確認していただいて、どのような防災グッズがあれば災害を乗り切れるか想像してみてください。
- 地震で家具が倒れて、手を軽くケガしてしまう
- 断水や停電の被害に合い、物資が長期間不足してしまう
- 台風や豪雨により、自宅が浸水被害に合う
- 自宅が大きく損傷し、住めなくなってしまう
- 地震や津波で孤立し、救助や支援が受けられなくなってしまう
- 自宅は住めなくなり、家族も大きなケガを負ってしまう
(1)ならば救急箱あれば大丈夫でしょう。
(4)までくると避難所生活や最終的には野営まで検討する必要が出そうです。
(6)ならば大ケガにも対応できるぐらいの応急処置・資材の備えも必要です。
私たちは防災グッズを買い込む際、「まぁこれくらいあれば…」と感覚的に備えている側面があります。
そのため、通販などでよく見かける防災グッズセットを買ったとしても、飲料水や保存食の一般的な消耗品や、簡素な小道具が多めに入っているだけの状態が多く見られ、被災時には「セットの内容が不十分だった」「あまり役に立たなかった」「肝心な時に手元にない」といった結果につながりやすくなります。
防災グッズを買う前に準備したい5つのポイント
重要な事は防災グッズの買い方だけに注目せず、
- 身の回りの災害リスクを知る
- ご自身の被害想定レベルを設定する
- 防災へかけられる予算の把握する
- ご自身や守るべき人の行動パターンと、生き残るための防災グッズ選定する
- 防災グッズでカバーできない要因の確認と対策案を出す
このあたりを踏まえて計画しましょう!
ほかにも、自宅が建っている地理的要因だけでなく、家族構成、ライフスタイル(通勤・通学)、健康状態(持病の有無)などによっても被害想定レベルは変化します。身の回りにどのような災害リスクがあるのかを知り、優先的にどんな被害に対応すべきか考えましょう。
ハザードマップを見ておくだけでも、災害の専門家でなくとも「今、住んでいる◯◯市はこんな災害リスクがあったのか…」と気付きが生まれます。
ハザードマップから災害リスクを知る
身の回りにどんな災害リスクがあるのかを知るにはハザードマップを確認しましょう。
お住まいの自治体サイトや、市役所にあれば冊子を受け取ることも可能ですが、国土交通省が運営するハザードマップポータルサイトがネットで素早く検索できて便利です。
国土交通省 ハザードマップポータルサイト
https://disaportal.gsi.go.jp/index.html
下記は実際に東京都足立区を「重ねるハザードマップ」で表示させた様子です。
画面右上にある「危」の虫眼鏡を選択してから地図をクリックすると、災害リスクをまとめて表示してくれます。
リスクをまとめて表示させた後「◯◯区のハザードマップを見る」のリンクを選択すれば「わがまちハザードマップ」へと移動し、自治体ごとの詳細なハザードマップも見ることができます。これは自治体によってリンクが無い場合もあると思いますので、その際は自力で自治体の公式サイトか市役所へ直接取りに行く必要があります。
自治体によっては震災によって火災が起きた場合の延焼しやすいエリアも記されたハザードマップも提供している場合があります。
ハザードマップを見さえすればすべての災害リスクが判明するという訳ではありませんが、今まで詳しく把握できなかった災害リスクを知ることができるだけでも防災への取り組み方に大きく貢献してくれるでしょう。
災害リスクを知ったら行動パターンを振り返る
「防災グッズを買う前に準備したい5つのポイント」でも述べましたが、リスクを知っただけでは、そのリスクに対して実際どこまで重点的に対処すべきか判断がつきません。
例えば、出張の頻度が高い方、勤務先まで長時間かかる方、小さなお子様や高齢者がいるご家庭など…。各家庭の様々な事情から普段の行動パターンも異なってきます。
共働きのご家庭で日中は夫婦ともに勤務先へと外出している場合でしたら、勤務先でも役立つ防災グッズあると心強いでしょう。マイカー通勤であれば車両内にも備蓄強化(夏場の過熱にはご注意ください)。
逆に新型コロナウイルスでテレワークが加速したように、自宅での在宅勤務が多くなった場合には、自宅での備蓄が多く必要になる訳ですね。
行動パターンチェックリスト
自宅と外出先の比率はどれくらいですか? | ・防災グッズなどの備えが偏っていませんか? ・外出先に適した備えがありますか? |
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通勤・通学路にリスクはどれくらいあるか? | ・迂回路、高台や避難所、公共交通機関など被災時の助けになる要素はありますか? ・逆にリスクが高くなってしまう場所や施設があったりしませんか? |
休暇は遠出するほうですか? | ・遠出する事が多い場合は、地理的にも詳しくない場所で被災するため事前の計画に防災面の備えを組み込んでおく必要があります。 |
ご家族に災害弱者に当てはまる方はいますか? | ・災害時要援護者(災害弱者)に対するガイドラインも参照 →災害時要援護者対策 ガイドライン 日本赤十字社 |
ペットは飼っていますか? | ・ペットの救護対策ガイドラインも参照 →災害時におけるペットの救護対策ガイドライン 環境省 |
このように、地理的な災害リスクを知った後は行動パターン(生活そのもの)を確認していくと、防災グッズを買うにしても、より重点的に備えるポイントが見えてくると思います。
通勤用のバックパックの中身を見直したり、勤務先のロッカーにも備えがあったり、場合によっては勤務先そのものへ災害対策について進言するきっかけにもなるでしょう。
新型コロナウィルスの件では実際に自宅や道路が損傷することがなくても、トイレットペーパー、ウェットティッシュ、マスク、アルコール、精製水、消毒薬(次亜塩素酸ナトリウムなど)、スプレー容器までも買い占められました。台風や豪雨のようなわかりやすい災害だけではないという事を痛感した一面でもあります。
コロナ禍の教訓から感染症や食中毒に対する備えも防災の一つとして捉え、買い占めに走らないと「身を守るものが全然ない!」という事にならぬよう対策できるものは備蓄の強化を進めておきましょう。
生き残るための防災グッズとは?
防災グッズを買う前に、まずは不要な家具の整理から始めましょう。
家具が多ければ多いほど、崩れ落ちてきた家具の下敷きになったり、散乱したガラスでケガ、火災発生などリスクが高まっていきます。
上記の写真は阪神大震災で撮影されたもので、食器棚の倒れ込みが確認できます。
家具が多いと避難もしにくく、持ち出し袋があったとしてもすぐには取り出せないかもしれません。家具を固定する防災グッズも市販されていますが、あらゆる家具や小物まで1つ1つ固定するのは現実的ではないでしょうし、家具を減らす事をおすすめいたします。
さて、肝心の「生き残るための防災グッズ」についてですが、基本は身体を直接防護するような製品が多く含まれます。
生き残るための防災グッズチェックリスト
常夜灯 | LEDタイプで停電時でも点灯し続けるもの。 人感ライトだと人が近づかないと点灯しないので、停電時はずっと光ってもらったほうが視界を確保できます。 |
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脱出ハンマー | 最近は車両事故向けに注目されている製品ですね。 住宅用を想定するならば、「ドアが開かなくなった場合はどうするか?」を考えて、ドアの破壊や窓からの脱出などを検討。 |
踏み抜き防止スリッパ | 部屋に散乱したガラスの踏み抜き防止。 |
踏み抜き防止インソール | 避難時行動時のクギやガラスなどの踏み抜き防止。 インソールとして販売されているので、既存のスニーカーへ入れて即席安全靴としても使える。 |
レインコート | キャンプ用品の防水性の高いジャケットであれば普段使いとして兼用もでき便利です。安価なビニール製の雨合羽は長時間着ると猛烈に蒸れるのでご注意ください。 |
救命胴衣 ライフジャケット | ハザードマップで浸水被害によるリスクが高い場合に検討。 地域によっては2F建ての家が水没するレベルの浸水被害が予想される地域があります。 |
折り畳みヘルメット スポーツ向けヘルメット | 頭部の保護。工事用のヘルメットだと、かさばって邪魔になりやすいので折り畳みタイプが良いと思います。 子供用にはスポーツタイプ(自転車用・登山用)が代用できるでしょう。 |
スポーツ向け手袋 | 最悪、100円均一で売られているような滑り止め付き軍手で代用することも可能(使い捨てで行くならむしろ有用でもある)。 トレッキング用などアウトドアの趣味に関連する手袋であれば防風、防水、保温、滑り止め、スマホ操作可能な手袋が入手できます。 |
照明器具 | ヘッドライトや懐中電灯など。 屋外への避難も視野に入れるのでペンライトだと心もとないので、最低でも自転車用ライトくらいは明るく照らせるものを選びましょう。 |
ロープも候補としてはありますが、ロープワークを知らないと不意に解けたり、妙な結び方で自身の行動がしにくくなったり、何かに引っ掛けて事故へつながる場合もあるので取り扱いに注意が必要です。
防災グッズの備え”だけ”が、災害対策ではない
防災グッズや救助工具などを揃えていくと頼もしくすら見えてくる一方で、いざ災害が起きてしまうと自然の大きな力には人間の無力さ感じます。東日本大震災の津波被害などは典型的な例だと言えるでしょう。
自宅には備えがあるからと過信せず、避難場所への早期避難も視野にいれた防災計画を立てましょう。下記は福岡県の実験河川(岩岳川)で行われた洪水時の歩行実験(約1.8m/sの流速)ですが、水害時の避難の困難さがよくわかる動画かと思います。
特に自宅が平屋建てのような階数がないタイプの家屋は、耐震化が進められていても水害には不利(水没しやすい)ですので特に注意が必要です。
家屋を耐震化への予算が掛けられなかったり、築年数が経って台風への対抗力に不安がある場合も、水害対策と同様に近くの有効な避難所を把握しておきましょう。(※避難所によっては災害時に施錠されていて利用できなかった…という場合がありますので事前の確認をおすすめします)
突き詰めると最強の防災は『引っ越し』になる
もはや備え方が防災グッズではなくなる話ですが、これが市民が選択できる最強の防災は引っ越しだと考えています。
いくら防災グッズを用意しても、災害リスクが高い地域だとカバーしきれません。例えば住宅が全壊してしまえば、防災グッズの多くは取り出せなかったり、破損したりしてしまうので役に立たなくなってきます。
また、耐震性が高い住宅だったとしても、台風やゲリラ豪雨で2階まで水没したり、自宅近くの山から土砂崩れに遭う場合も、震災と同様に大きな被害を受けてしまいます。道路が寸断されて孤立してしまうエリアもあるでしょう。
- 自宅が木造で築40年。老朽化も激しい…
- 住宅密集地な上に道路も狭い。火災や震災時は避難できるだろうか…
- 津波や高波、台風シーズンはどうしよう…
- 裏山の土砂崩れが心配。豪雨で落石や土石流がおきたら…
- 豪雨で河川から溢れ、浸水被害が何度が起きている…
上記のような災害リスクが高いエリアにお住まいの場合、防災グッズだけで備えようとするよりも、引っ越しして災害リスクを抑えるほうが現実的な対策になるでしょう。
一例として、2018年の夏に発生した西日本豪雨では、浸水の深さは最大5.4m(岡山県倉敷市真備町地区)にも達しました。2階で寝ていたとしても水没しかねない状況です。もし、自宅が平屋建てであれば地震に強い住宅だったとしても屋根のてっぺんまで完全に水没する浸水被害だった…ということになります。
こうなってくると、豪雨時の早期避難、3階以上の避難場所確保、防災グッズとしては地震対策のほかにも家族分の救命胴衣やボートまで備える必要が出るのか…?等という話になってきてしまうでしょう。
繰り返しになりますが、災害リスクが高いエリアにお住まいの方は、耐震性のある比較的新しいマンションの3階以上を検討(10mの浸水や津波を想定)したり、災害リスクが控えめなエリアへの引っ越しすることが総合的に防災力を高められる選択肢になるかと思われます。