防災・減災ガイド

車中泊の避難生活で災害に備える!マイカーを防災に活かす車中泊のメリットとデメリット

災害時に車中泊が注目されている理由

避難所が満員で入れないケースが出てきた

下記は2019年の台風19号により、東京都狛江市で先行して開設された避難所が満員となった様子をTBS Newsが報じたものです。自然災害の激甚化が増えていくにつれて、避難所へ身を寄せる事も増えてきています。

気象庁が発表したレポート『特集 激甚化する豪雨災害から命と暮らしを守るために(※PDF)』にも公開されていますが1時間あたり50mm以上の降雨が確認される日数は右肩上がりで長期的にもその傾向が続くだろうとされています。

避難所が満員になった理由としては、

  • 先行開設するタイミングが他の施設より早くて一箇所に集中した
  • 避難場所の候補施設自体はあるが、災害時には浸水してしまう可能性がある

といったケースがあります。

特に後者は地形的な要因もあり、2020年6月24日に報じられたNHK Web特集『2割しか入れない? 深刻化する避難所不足』では「浸水する施設も使わざるをえないのが現状」と自治体担当者さんが答えていました。

コロナ禍で分散避難を強く求められるようになった

定員オーバーしやすい避難所で新型コロナウイルス感染症対策として、分散避難の必要性がより高まってきました(内閣府・消防庁より:新型コロナウイルス感染症が収束しない中でも災害時には、危険な場所にいる人は避難することが原則・知っておくべき5つのポイント ※PDF)。

コロナ禍においては感染を拡大させないため人と人との距離を空ける事が求められていますが、災害で被災者が押し寄せると間隔を確保できなくなってしまいます。

いわき市は新型コロナウイルスの感染防止のため「1人当たり6平方メートル」として、人と人との間隔を2メートル確保しようとしています。避難所で受け入れられる人数は従来の3分の1に減ってしまいます
NHK特集 “避難所足りません” 災害と新型コロナ 2020年5月22日報道

1人あたりの避難スペースを広くとると避難所の定員も半分以下になる事もあり、車中泊やホテル泊といった分散避難が求められています。

感染症拡大により避難所で二次被害に遭う

2019年末から2020年にかけては新型コロナウイルス感染症が注目されましたが、災害時の避難所における感染症流行は新型コロナだけではありません。

代表的な感染症は上記2つですが、このほかにも日本感染症学会の『東日本大震災―地震・津波後に問題となる感染症― Version 2』で解説されている通り、災害時には非常に多くの感染症のリスクが高まる事がわかります。

過去の災害では2019年の台風19号では福島県いわき市の避難所で、2016年の熊本地震では南阿蘇など各避難所でノロウイルスの流行が確認されました

参考:
厚生労働省 避難所におけるノロウイルス感染症対策の徹底について(※PDF)
熊本赤十字病院 ノロウイルスなどの感染症にご注意ください

新型コロナウイルス感染症対策でソーシャル・ディスタンス(人と人との間隔を1~2m空ける)が広まったように、福井県の『新型コロナウイルスに備えた避難所運営の手引き(※PDF)』では感染リスクを避けるための避難方法として在宅避難のほか、車中泊も例にあがっています

避難所での生活環境になじめない

避難所は福祉施設や学校などが選定される事が多いですが、もともと居住空間としては整備されていないため、長期に及ぶ避難生活は被災者にとって大きなストレスになります。

空調が効かず、夏場は暑く冬場は凍える室温

設備があっても停電により電力供給が途絶えてしまう場合や、空調設備がない施設が避難所に指定されていたりします。体育館は数多くの被災者を収容できる一方、住居のような空調や壁への断熱材は用いられておらず、夏場は暑く、冬場は凍えるような室温になります。

甚大な被害が出た広島、岡山、愛媛3県の被災地域では、熱中症の疑いで計136人が救急搬送され、広島県三原市で90代の女性が死亡した。
西日本豪雨 被災地で熱中症相次ぐ 3県で136人搬送

2018年に起きた西日本豪雨では連日の猛暑日で熱中症になる被災者が続出しました。

他人との集団生活でプライバシーの確保が困難

いきなり面識のない人々との集団生活という環境の急激な変化についていけるのかどうかは個人差もあるでしょうが、着替えすらままならない状況が続けばストレスもたまり、体調も崩しやすくなります。

避難者の区画ごとに間仕切り(パーティション)などの部材がしっかり組まれて、プライバシーの確保が進んでいると不安感も軽減されますが、こればかりは避難所の整備状況次第となります。

避難スペースが狭くて心身ともに休まらない

緊急時だから仕方ないと思うところもある一方、「そこでしばらく避難生活を・・・」となると話は別で、被災者の収容状況によっては横になって寝るのも一苦労という環境になります。

避難者1人当たりの避難所収容面積
阪神・淡路大震災における地震発生直後の1人あたり占有面積は1.0~1.7平方メートル/人が最も多く、1人1畳以下であり、身を横たえ休息をとるのも困難な状況であった

一次避難所における避難者収容可能人数と避難者1人当たり収容面積
東京都区部 1.69平方メートル、東京都多摩 1.57平方メートル、東京都島嶼部 1.78平方メートル
内閣府 避難者に係る対策の参考資料 (※PDF)

新型コロナウイルス感染症の影響を除外しても東京都の場合は避難者1人あたりの避難スペースが1~2平方メートルになる可能性が報告されており、避難生活の継続が難しく感じる方も多く出てくるでしょう。

車中泊が万能という訳ではないですが、様々な避難所での課題を解決できる部分も多いため災害発生時の状況に合わせて車中泊という選択肢も用意しておくといち早い生活再建に役立てることができます。

この他にも、身体が不自由であったり、お子様がまだ小さかったり、サポートを必要とするご家族がいたり、ペットと共に日々過ごしてきたりと避難所だけでは細かな支援を受けにくいケースもあります。

近年では避難生活に一定の配慮を要する方を対象とした「福祉避難所」や「緊急入所施設」という避難所もあります。こちらは自治体が民間企業と提携して案内できる場合がありますのでお住まいの地域名と共に検索してみてください(例:「京都 福祉避難所」とGoogleで検索する等)。

車中泊避難が行われた過去の災害

熊本地震では車中泊を選択した被災者が続出

熊本地震の特徴として震度7の大地震が発生したあと、さらに数日後に震度7の大地震が発生したという観測史上初の特徴をもった地震でした。

熊本県が被災者に向けてのアンケート実施、内閣府発表の『熊本地震被災者アンケートの分析結果に基づく熊本地震における住民の避難理由と避難期間(※PDF)』によれば、自宅被害やインフラ被害がなかった避難者であっても、実に6割は車中泊を選択されていました。

車中泊・車中避難を選択した理由は何だったか?

北九州市立大学『熊本地震における車中避難者の 実態とその後の支援について(※PDF)』の被災者に対して行われた個別に話を伺った調査によれば、下記の3項目が車中泊・車中避難を選択した主な理由となりました。もちろん、自宅が大きなダメージを受けて住めなくなってしまった方も含まれています。

  • 再び大きな地震があるのではないか、と不安なため
  • 余震が続いていて、自宅で寝るのが不安なため
  • 避難所での生活より車中避難の方がよいと思うため

また、避難所自体を避けた理由としてはプライバシー確保などの問題はありましたが、「建物の中は怖い」「車だと揺れが軽減される(元々スプリングで走行時の振動を和らげる設計なので)」といった余震に対する強い不安も背景にありました。

災害時の車中泊避難のメリット

車中泊避難のメリットとしては次のようなものがあげられます。

熊本地震の例では、ボックスカーやキャンピングカーのような野営しやすい車種でなくとも、ブルーシートやテントと併用する事で避難スペースを拡張したり、居住性を高めている方もおられました。

  • プライバシーの確保しやすい
  • 新型コロナウイルスなどの感染症対策になる
  • エアコン、カーラジオ、照明といった車載設備が利用できる
  • 避難場所の移動がしやすい
  • 買い出しへも出向きやすく、一度に多くの量を積み込める
  • 余震の不安を軽減できる
  • 車載工具が救助活動や軽い工作へ役立てられる
  • 体育館の床と比較すればクッション性がある
  • ペットと共に避難できる
  • 一般の避難所よりも要支援者のサポートがしやすい

このほか、普段からどういった防災グッズを車両へ積み込んでいるかで、さらにメリット部分を強化していくことが可能です。

災害時の車中泊避難のデメリット

一方で車中泊ならではのデメリットもあります。

特に車中泊でのエコノミークラス症候群は熊本地震でも震災関連死として多発した問題でもあり、車中泊・車中避難に取り組む際には十分に予防運動を行うなど注意が必要です。

  • どんな災害でも車中泊が使えるとは限らない
  • 駐車先がなかなか見つからない場合がある
  • 避難先が安全な場所であるか十分確認する必要がある
  • 同じ姿勢が続きエコノミークラス症候群に陥る危険性がある
  • 車種によっては家族分が就寝できるほどのスペースがとれない
  • 道路状況がわかっていないと二次被害に遭いやすい
  • 車中泊ならではの準備が必要(断熱材、カーテン等)
  • 風通しが悪いと排気ガスによる一酸化炭素中毒の危険性がでる
  • 自治体が車中泊避難者を把握できないので支援を得にくい
  • トイレに関しては避難所と同様に別途確保が必要となる

また、台風や豪雨などの予報から事前避難として車中泊へ移行する場合は移動がしやすいですが、被災後は建物の倒壊、マンホールの隆起、道路の冠水・陥没などが起こります。

上空からの落下物がない開けた場所に無事に避難・駐車が出来たとしても、豪雨で排水が追いつかずに車両が浸水するという事もあります。

車中泊を検討したほうが良いパターン

災害の被害予測がわかり、事前の避難活動ができる

気象予報の技術が発達して災害のリスクを予測できるようになってきた現代では、早めの避難行動へ繋げられる環境が整ってきています。たとえば台風であれば突然目の前に出現したりはしないので、気象予報によって「強い台風がくる」という事がわかります。

次に、「自宅避難とすべきか?」という判断については行政が市民に向けて周知しているハザードマップを確認しましょう。このマップを見れば、浸水しやすさ、土砂災害の起きやすさ、津波被害のリスクなどがわかります。

ただし、ハザードマップは市民それぞれの事情についてまでリスク評価はできません。自宅の築年数が経っていて耐久性に問題がある場合は台風による強風で被害が拡大しやすいでしょうし、ペットを飼っていれば共に避難する手段を自身で配慮に入れておかねばなりません。

災害に対して明確な被害イメージがつかない場合は、YouTubeで過去の被害の出方を動画で見ることができますので、想定力を補強すると良いでしょう。例えば「うちの家もこれくらいだし、同じレベルの台風がきたらヤバいかも・・・」など、参考になるシーンはでてくると思います。

コロナ禍のように感染症が大流行している

感染症が流行していない状態の避難所は、一人当たりの避難スペースが1~2平方メートルと居住スペースとしては狭いものの、詰め込むようなレベルで避難先として市民を収容できることが可能でした。

ところが新型コロナウイルス感染症が流行すると感染症対策を強化するために一人当たりの避難スペースをより多くとる必要性が出てしまったため、避難所の定員数が大幅に減少しています。

次々と避難所が満員になると避難先の確保がいつまで経ってもできなくなるため、時間的な余裕があるうちに車中避難を選択するほうが計画的な避難がしやすくなります。

車中泊を見合わせたほうが良いパターン

地震のように事前の避難活動が出来ない災害

災害が起きてしまった後に避難を開始する場合、その避難経路や避難先の安全も確認する必要が出てきます

特に大地震で津波の襲来が危険視される場合は避難所での生活のことよりも、津波を回避できる高さの確保といった素早い垂直避難が求められます(※自治体によっては津波の到達時間や避難対象範囲を考慮して水平避難も強調されているケースがあります)。

津波で避難するときは、「遠く」より「高い」場所に避難することを意識しましょう。自動車での避難は道路の渋滞に巻き込まれるおそれがあるため、原則、徒歩で避難しましょう。想定されている津波浸水の高さ以上に位置する「津波避難ビル」やできるだけ頑丈で高い建物に避難してください。
避難の心得(津波編)|日本気象協会 トクする!防災

日本気象協会のページにも案内されていますが、車中避難は渋滞につかまって身動きがとれなくなる場合もでてきます。また、震災直後はブロック塀・電柱・家屋の倒壊、地面の隆起や陥没、橋や歩道橋の破損など安全に通行できるかどうかがわかりません。

徒歩や自転車での移動は平時の車よりは遅いですが、道路が渋滞していても瓦礫が散乱しても確実性の高い移動ができます。

災害時の車中泊自体が難しい要配慮者の場合

車中泊は気軽そうに見えて、要配慮者にとってはよりハードルの高い避難方法でもあります。

要配慮者とは?
高齢者、障害者、乳幼児等の防災施策において特に配慮を要する方
災害時要援護者対策 : 防災情報のページ – 内閣府

車中泊や車中避難は健常者であっても心身に負担が掛かりやすい環境であるため、普段から車中泊をされているような方はキャンプ用品や日用雑貨を組み合わせて車内の居住性を高めたり、エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)に陥らないように心がけていたりします。

食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていて足を動かさないと、血行不良が起こり血液が固まりやすくなります。その結果、血の固まり(血栓)が血管の中を流れ、肺に詰まって肺塞栓などを誘発する恐れがあります。
厚生労働省 エコノミークラス症候群の予防のために

要配慮者で車中泊が困難な場合だと思われる場合は、事前にかかわりのある事業者(通院・通所先など)、ケアマネージャー、地域包括支援センター、市町村役場などへ『福祉避難所』について相談しておきましょう。

  • 福祉避難所として指定されている事業所はどこか?
  • 福祉避難所がなくとも頼れる最寄りの施設はどこか?
  • 福祉避難所はどのように利用すれば良いか?

福祉避難所とは要配慮者に対応しやすい環境が整っている避難場所のことで、自治体の判断により一般の避難所とは別に開設されます。開設のタイミングや条件については自治体や受け入れ施設側の状況によって異なってきます。

要配慮者とともに車中泊が可能だった場合でも、その支援者(ご家族など)が災害時にずっと対応されるのは難しいと思われますので、福祉避難所を一定期間ごとに利用する方法も検討するなど柔軟に対応できるよう避難計画を立てておきましょう。

車中泊に適さないエリアにいる場合

車中泊だと素早く避難場所を移せるメリットがある一方、避難先が安全であるかどうかを常に確認しておく必要があります。

車中泊場所のチェックポイント

  • 地面が傾斜地でなく水平であるか
  • 排気ガスが滞留してしまう場所になっていないか
  • 倒壊しそうな建築物が周囲にないか
  • 冠水してしまう心配はないか
  • 大雪で埋もれてしまうリスクはないか
  • がけ崩れ、土砂崩れの恐れはないか
  • 防犯上問題になりやすい人気のない暗い場所でないか

こういった車中泊に適さない場所を回避しやすい場所としては、大規模な駐車場や避難所があります。熊本地震ではショッピングモール側が駐車場を開放した事例もありますので、情報収集する際には付近の大規模な商業施設をあたってみるのも良いでしょう。

駐車場は強い余震による建物倒壊の巻き添え被害を受けにくくする事はできますが、暑さ・寒さ対策や、生活用水、トイレ問題といったところまでは行き届きにくいため、やはり車中泊ならではの準備が重要となります。

車中泊での連泊が濃厚になってきた場合

車中で1泊もすれば翌日、身体のあちこちが痛くなっている事もしばしば。

詳細は以下の体験談も見ていただきたいですが、台風で大きな被害が出た千葉県の事例ですと、夏場の猛暑に加えて10日間の停電がありました。

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住まいが倒壊する事がなくても停電が続いたため、猛暑なのに空調が効かず車のエアコンを使いながら車中泊をされましたが、自宅と車中泊だけでは避難生活に限界を感じ、姉弟の住まいやホテル泊と組み合わせていました。

災害時は元の生活ができるようになるまでに時間がかかる事もあります。災害時の車中泊は一つの選択肢として捉え、慣れていない方は体調を崩さないように、避難所のほか、宿泊施設、親戚や知人宅など、お互いが助け合いやすい状況を維持して、避難生活を乗り切りましょう。