高さが1mでも致死的な威力を持つ津波
下記の動画は中央大学で津波を研究されている有川太郎教授のもとで、CBCニュースのアナウンサーが津波の実験設備で威力を体験されたものです。
20~30cmではどうにか踏ん張ったものの、30~40cmの模擬津波を受けると抵抗する間もなく流されてしまいました。日常生活で津波を受ければ身体を支える安全帯やロープもつけることはあれませんし、漂流物との衝突など条件はさらに悪化します。
どれくらいの津波の高さで人や建物に被害が出るか?
内閣府 南海トラフの巨大地震モデル検討会 南海トラフの巨大地震モデル検討会
(第二次報告) 津波断層モデル編(※PDF) と、気象庁 津波の高さと被害との関係(※PDF) によれば、津波の高さが1mでほとんど人が死亡し、木造家屋は2~3mで全壊、鉄筋コンクリートのビルは規模によって被害は大きく左右されるでしょうが5mほどから持ちこたえられなくとのことです。
津波の高さ | 被害の度合い |
0.3m | ・避難行動がとれなくなる(動くことができなくなる) |
0.7m | ・沿岸部の津波の高さ0.7mで湾岸道路などが冠水していく |
1m | ・津波に巻き込まれた場合、ほとんどの人が亡くなる |
2m | ・木造家屋の半数が全壊する ・2割程度の建物が流出しだす |
3m | ・木造家屋はほとんど全壊する |
4m | ・防潮林は部分的に被害を受けるが漂流物を抑えてくれる |
5m | ・2階建ての建物(或いは2階部分までが)が水没する ・鉄筋コンクリートビルが持ちこたえる限界に近づく ・人的な被害が急増してくる |
6m | ・8割程度の建物が流出しだす |
8m | ・全面的に被害を受けて防潮林の効果がなくなる |
10m | ・3階建ての建物(或いは3階部分までが)が完全に水没する |
20m | ・鉄筋コンクリートビルも全面破壊となる |
この被害度合いから考えると津波の被害想定が2~3mを超えてくる地域では、町の木造家屋がことごとく破壊されてしまうため、津波避難タワー、津波避難ビルに登録された建物、大型の商業施設など避難先が限れてくると思われます。
津波避難ビルは、内閣府 津波避難ビル等を活用した津波防災対策の推進について でもアナウンスされているとおり、所定のガイドラインをもとに津波避難へ適しているか確認されて登録がなされています。
まずはハザードマップなど確認の上、自宅がどれくらいの津波被害を受けそうか確認し、避難計画(避難先の選定、避難経路など)を立てていきましょう。
ハザードマップはお住まいの自治体ホームページ、市役所の防災課や危機管理課の窓口、国土交通省 ハザードマップポータルサイトで確認することが出来ます。
東日本大震災の津波の高さはどれくらいだったか?
気象庁 津波痕跡から推定した津波の高さと被害状況(※PDF) によれば、津波の痕跡から推定した各地の高さは下記の通りです。これは津波がない時の潮位から津波痕跡が確認された高さまでの数値となっています。
地域 | 津波の高さ |
大船渡 | 16.7m |
宮古 | 9.3m |
釜石 | 9.3m |
相馬 | 8.9m |
久慈港 | 8.6m |
石巻市鮎川 | 7.7m |
仙台港 | 7.2m |
八戸 | 6.2m |
津波が陸地の斜面を駆け上っていった『遡上高』については国内観測史上最大となる40.5mが観測されました(内閣府 東日本大震災の概要)。
遡上高というのは、たとえば40mほどの小山があったとしたらその頂上まで津波が届いたという意味で、高さ40mの水の壁が発生した訳ではありません。
一方、前述の表で津波の高さ16.7mならば、16m程度の高さがある建物が完全に水没することを意味しています。大船渡市街地の記録が下記にあります、被災当時の様子が映っておりますので閲覧にはご注意ください。
東日本大震災の人的被害について総務省消防庁 東北地方太平洋沖地震(第161報)(※PDF)によれば、死者19,747名、行方不明者2,556名、負傷者6,242名。
また、警視庁 大規模災害と警察 震災の教訓を踏まえた危機管理体制の再構築(※PDF)の資料から岩手県、宮城県、福島県の被災3県で警視庁が検視等を行った結果、死因の90.6%が津波に巻き込まれたことによる溺死でした。
この『犠牲者の死因のほとんどが津波による溺死』の部分に関しては、東北大学災害科学国際研究所の方々がさらに踏み込んで調査をされており、今後、津波に対する避難行動の在り方もハザードマップの更新などを経て少しずつ変わってくるかもしれません。
約570名もの児童全員が津波から避難できた事例
防災教育の徹底が学校にいた児童約570名全員が助かった事例があります。総務省 消防庁 防災危機管理eカレッジ 3.釜石の奇跡 にて動画付きで詳しく紹介されておりますのでぜひご確認ください。
避難場所を4度も変更し続けて逃げ切った
普通の方なら避難した先で『あぁ、助かった』や『ここまで来たら大丈夫』と気を緩めてしまうシチュエーションかもしれません。鵜住居小学校の避難事例では刻々と変わる被災状況にあわせて4度も避難先を変更しています。
変更回数 | 避難場所 |
1度目 | 地震直後は校舎の3階へ垂直避難した |
2度目 | 約500m先の高台にあるグループホームへ変更 |
3度目 | 建物の裏の崖が崩れた事を確認したためさらに高台へ |
4度目 | 津波が堤防を越えた連絡を受けもっと高台へ |
その後、校舎や2度目の避難先は津波被害を受けており、4度目の高台へ避難した児童らは全員無事でした。
パニックで避難先を変更した訳ではなかった
もし、津波が街を襲っている状況を目にしてパニック状態となり、避難先を慌てて変更していたらどうなったでしょうか?もしかしたら途中で被災していたかもしれません。
鵜住居小学校では子どもたち自身が避難計画を立て、年間5~10数時間の防災授業も実施されており、今回のように避難場所の指定も具体的で、次の高台、さらに次の高台と安全な経路を選択していくことも出来ていました。
また、防災授業や釜石東中学校の合同訓練などから下記の『避難3原則』を徹底して身につけていたとのこと。
(1) 想定にとらわれない
(2) 状況下において最善をつくす
(3) 率先避難者になる
特に『想定にとらわれない』については、より安全な場所へ避難先を変更し続けた事からも避難の三原則が身につき、活かされている証拠だと思います。
もし・・・
『ハザードマップで被害想定が○mだから○○の高台へ避難しよう』
とだけ決めて避難計画を立てていたらどうでしょう?
津波の高さが想定よりも少しでも上回った時、避難先が無くなってしまいます。ハザードマップは現在の科学でかなり精密に被害想定がなされているとは思いますが、災害が想定範囲内に収まる保証はありません。
南海トラフ地震、首都直下地震、そして日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震など、非常に大きな被害が想定される災害では、避難先へたどり着けない場合や、避難先自体が利用できない事も出てくるでしょう。
東日本大震災という大災害から身を守れた釜石の避難事例を活かしていく意味でも、避難計画を見直していき、私たちも『避難3原則』を身に着けていきましょう。