防災・減災ガイド

富士山の噴火はいつ?巨大地震と噴火の関係性について行政側はどんな見解なのか?

富士山はいつ噴火してもおかしくないが・・・

富士山噴火の歴史と活動周期について

下記は気象庁 富士山 有史以降の火山活動より噴火が確認された年をまとめたもので、富士山は宝永噴火を最後に300年間以上も噴火していません。

過去の噴火活動の推移からも「富士山はいつ噴火してもおかしくない」「南海トラフ地震と連動して日本はとてつもない被害がでる」といった表現を見かけるものの、これだけでは漠然とした不安はあっても市民の防災・減災には繋がりくいでしょう。

噴火した年噴火時の状況
781年降灰
800年噴火、降灰多量、スコリア降下、溶岩流
864年大規模な噴火(貞観噴火)
932年スコリア降下、溶岩流
999年詳細不明
1033年スコリア降下、溶岩流
1083年詳細不明
1435年スコリア降下、溶岩流
1511年詳細不明
1707年大規模な噴火(宝永噴火)
?年ここまで300年以上も噴火が発生していない
※表中の『スコリア』とは火山噴出物の一種です。

私たち1人1人が動くには、前兆に関するより具体的な情報や、噴火への対策手段が見いだせないとどうしても動きにくくなってしまいます。

そもそも富士山噴火の前兆は捉えられるのか?

現代では火山を観測している各指標から前兆を捉えることができます。

富士山は気象庁により24時間体制で監視対象となっている『常時観測火山』に指定され、火山性地震、火山性微動、火山ガスの濃度、火口部の高温化、地殻変動、磁力変化などを総合的に分析され、噴火の前兆として捉えています。

下記は2015年箱根山の噴火前に見られた火山性地震の報道です。4月26日から火山性地震が増加し、最終的には6月29日~7月1日にかけて小規模な噴火が発生しました。
気象庁 地震火山部 平成27年(2015年)の箱根山の火山活動(※PDF)

噴火の前兆(火山の活動)は数ヶ月前から始まって噴火に至ることもあれば、噴火せずにそのまま休止状態なこともあります。岩手県の岩手山は1998年9月3日に555回の火山性地震を観測しましたが、噴火には至りませんでした。

なので、標準的な火山噴火プロセスを経て噴火に至る場合は、気象庁がすぐに反応して市民に知らせますし、噴火警戒レベルが引き上げられる可能性が高いでしょう。

前兆なしの突発的な噴火だった浅間山の事例

2019年8月7日の深夜に長野県の浅間山で小規模な噴火が発生しました。

翌日8月8日に気象庁が緊急会見を開き、噴火警戒レベルを1から3へと引き上げましたが、この浅間山は地殻変動などに明瞭な変化がなく、火山性地震は22時06分に記録され、噴火はその2分後の22時08分でした

このように様々な観測指標に変化が少なかったり、変化が落ち着いてしまった場合は、浅間山のように前兆なしの突発的な噴火パターンもありえます。

富士山の噴火が浅間山のようなパターンで、なおかつ、富士山への登山で噴火に備えるとすれば、入山前に避難経路や気象庁の火山活動状況は最低限確認しておきましょう。

また、御嶽山噴火をきっかけに活動火山対策特別措置法が改正され、富士山をはじめとする火山への登山者に向けて努力義務が定められました。

登山中の噴火については2014年の御嶽山噴火や、2018年の草津白根山噴火のような状況が想定されます。

ANNが報じた下記の記録映像にもあるように登山中の噴火に直面すると、噴石の飛来を警戒しつつ物陰への退避や火山灰の吸入を抑えるなど、被害を軽減する装備を携行する必要がでるほか、とっさの判断・行動を迫られます。

ヘルメット程度では防げない大きめの噴石の飛来に関しては、一個人の装備などでは対応ができません。まだ富士山は整備が進んでおりませんが、草津白根山のように火山シェルター、退避壕(たいひごう)が設置がされれば避難経路上のどのあたりになるか、併せて確認しておきましょう。

富士山噴火の前兆が確認された場合どうするか?

富士山の登山中に噴火が起きるのではなく、火山の観測指標から前兆を捉えることができた場合は他の災害と基本的には同じく素早い避難が求められます。

噴火してからハザードマップや避難経路を確認していては間に合わないため、事前に下記のポイントを押さえてスムーズな避難ができるよう備えておきましょう。

災害時の正常性バイアスをどう対策していけば良いか?逃げ遅れないための5つのポイント 正常性バイアスとは? 正常性バイアスとは、危機が迫っているという情報を得ながら、個人的な先入観などで平時であると受け止めてしまう...

避難行動はハザードマップを見ているだけでは身体がついていかない事がありますので、釜石市の津波避難事例を参考に、繰り返しの実践が有効です。

特に富士山の火山噴火は想定される噴火口の位置は広く分布し、火山流の動きも何パターンもあります。富士山噴火のハザードマップ初めて見ると複雑さを感じるかと思いますので確認する猶予がある今を活かしましょう

火山噴火に関連する災害を知る

火山噴火は真っ赤に焼けた溶岩と空高く立ち上る噴煙が印象的ではありますが、噴石(火山弾)、溶岩流、火砕流・火砕サージ、融雪型火山泥流、火山灰(降灰)、降灰後土石流、空振(衝撃波)、山体崩壊、火山ガス、岩屑なだれなど被害の出方が多岐にわたります

例えば大きな噴石であれば直径20~30cm以上もあり、改定された富士山噴火のハザードマップ上では火口から4kmまで飛来することが想定されています。建物に着弾した場合は屋根を突き破るほどの威力があります。

豪雨で浸水被害が出たならば水が届かない地点へ避難すれば良いですが、火山の噴火は火山灰1つとっても社会に様々な影響をおよぼすため、予備知識を得ておくことが防災・減災への第一歩となります。

ハザードマップでリスクを知る

自宅の近くまで火砕流や溶岩流が迫ってくる可能性が高い地域と、火山灰が少し降り積もるくらいで済む可能性が高い地域とでリスクに差が明確であるように、お住まいの地域がどれだけの危険性があるか確認しておきましょう。

富士山のハザードマップは2021年3月に改定されており、お住まいの地域が警戒避難体制を特に整備すべき地域であれば『火山災害警戒地域』に指定されています。指定された地域は 内閣府 火山災害警戒地域(※PDF) にて一覧表で確認することができます。

具体的な避難経路・避難先については、富士市のようにお住まいの地域ごとに案内されています。全国版や都道府県別のハザードマップよりも地元に密着した情報が盛り込まれていることがあるので、市役所や自治体ホームページから入手しましょう

避難用の防災グッズを買っておく

登山中の火山噴火に遭ってしまった場合と同様、火山灰から身を守るヘルメット、防塵ゴーグル、防塵マスク、レインコートなどが必要となります。他の災害だと防塵ゴーグルは見落としやすい製品なのでチェックしておきましょう。

防塵ゴーグルは無気孔タイプを選択すると眼へ火山灰侵入を軽減できますが、視界が曇りやすくなる場合があります。メガネをかけている方はやや大きめのゴーグルも必要なため購入した後は一度つけて避難行動時にフィット感が悪くならないか確かめておきましょう。

火山活動状況の情報収集に努める

気象庁『富士山の活動状況』のページから噴火警戒レベル、気象庁からの発表、警戒事項を確認することができます。『富士山の火山観測データ』からは火山噴火の前兆にもなりうる直近2ヶ月間の火山性地震発生状況がグラフで確認できます。

このほか、防災ラジオ、防災アプリ、自治体公式のTwitterやメールサービスなども情報収集に用いることができます。

防災アプリは手元にすぐ通知がくる便利さがある反面、スマートフォンの設定で通知が来なかったり、災害時のアクセス殺到でサーバーダウン(利用が一時的に出来なくなる)する場合がありますので、複数の手段で情報が得られるよう備えておきましょう。

地震は噴火を誘発させる関係にあるのか?

まず、気象庁の見解としては?

こちらは気象庁のよくある質問集にも案内がなされており、

ある地震活動が別の地震や火山活動にどのように影響を及ぼすかは、明らかではありません。気象庁では24時間体制で地震や火山の活動状況を監視しており、活動状況を地震情報や噴火警報などで発表します。これらの最新の情報や、地震や火山噴火への日頃からの備えを改めて確認していただくようお願いします。
気象庁 地震について 大きな地震が起こりましたが、別の大きな地震や火山噴火を誘発するおそれはないですか?

巨大地震が噴火に関係している(噴火を誘発させてしまう)のかどうか、という点についてまだ公式に回答がだされていません

専門家らの見解を一覧表でまとめてみると・・・

地震による火山噴火の誘発については、専門家の間でも意見がわかれています

以下の表にて見解部分の一部抜粋・引用していますが、正確な文脈把握のためにもリンク先もぜひ併せてご参照ください。

専門家らの見解(敬称略)
地質調査総合センター 須藤 茂
巨大地震発生後の3年間で特に火山活動が活発になっていたということはありません
火山噴火予知連絡会会長 藤井 敏嗣
M9に達するような巨大地震の場合には必ず火山噴火が誘発されてきた
火山噴火予知連絡会副会長 石原 和弘
2011年の東日本大震災が火山噴火を誘発したという考えや主張には疑問
人間・環境学研究科 鎌田 浩毅
海域で巨大地震が発生すると数ヵ月から数年以内に活火山の噴火を誘発する
地震学・火山物理学 西村 太志
噴火活動が長期間観測されなかった火山でも噴火が誘発されていた
東大地震研究所 中田 節也
大震災(東日本大震災)が引き金になった証拠はない
物性物理学 上川瀬名
過去の超巨大地震は必ず噴火を誘発した、というのは本当か?

火山学に触れることが少ない市民側の目線だと、巨大地震の強烈な揺れが火山の内部に亀裂を入れてしまったり、マグマを押し出すような力が働けば噴火との関係が強いのでは・・・と、シンプルに解説されたら納得しそうではあります。

一方で、静岡大学防災総合センター 小山真人 南海トラフ地震と連動する火山噴火 の可能性と定量的評価(※PDF)では地震による火山活動の活発化ばかりに注目され、むしろ火山活動(または地震)が低下するケースの見落としもあると指摘されていました。

このように、専門家らの見解を見ていくと、まだまだ地震と火山の噴火がそこまで直結してるとは言えないのが現状だと感じます

至近距離で巨大地震が発生した東日本大震災にしても、日本全国に111箇所もある火山に対して特に大きな影響を与えませんでした(参考:下記動画内 35分02秒ごろ 「2011年 東日本大震災で火山活動が活発してきてるのか?」)

こうなると巨大地震と噴火の関係性については、防災上の判断材料としては使いにくそうです。

なので、市民側の捉え方としては地震と連動するのか?しないのか?という話は保留とし、『富士山が噴火した時の対応』を考えていくほうが話が進みやすくなるかと思います。

富士山は過去数千年間、平均すると数十年に一度の頻度で噴火を繰り返してきましたが、最近300年以上噴火していません。平均よりも約10倍の長い期間休んでいることになりますから、これから先、いつ噴火してもおかしくありません。
山梨県 富士山噴火による新しい被害想定について(※PDF)

富士山は休止期間が既に300年経過しており、周期的な意味で噴火時期が迫っているという点については、専門家も行政側も一致した見解が見られます

地震と富士山噴火が連動するならどうするか?

実際に南海トラフ巨大地震と富士山が大噴火が連動すると、大きな被害になることは間違いないでしょう。しかし、連動性のみに注目すると災害への不安しか残らないため、可能な限り、防災・減災への行動へ繋げなければなりません。

大規模災害が連動するような被害想定への対策としては、やはり

  • 防災面に優れた建物に居住する
  • 危ない場所を避ける

こういった根本的なところに尽きるでしょう。

防災面に優れた建物とは?

例えば、東日本大震災の津波は住宅をことごとく押し流していきましたが、すべて建物が為す術もなく破壊された訳ではありません。一部の鉄筋コンクリート造の建物はしっかり残っていました

上記動画は17mを超える津波の被害を受け、4階まで浸水、2階までは柱を残して流出しても倒壊せずに耐えきった『たろう観光ホテル』です。1986年に建設されたこの建物は震災遺構として保存されています

たろう観光ホテルが奇跡的に難を逃れたわけではなく、日本建築学会の被災地調査からも鉄筋コンクリートの建物の強さが目立ちました。また、1階部分が柱のみの建物も津波エネルギーの受け流しが効果的だったとして、今後、建物の構造を工夫していく事でも津波対策がが期待されています。

いまお住まいの自宅が防災面に不安があったとしても、一時避難先の建物を探す際の判断基準になるでしょう。一定の高さや耐震性をクリアした津波避難ビルもありますが、自宅や通勤・通学途中に近い場所に必ずあるとは限りません。

大規模災害の被害想定で最大 何十万人の犠牲者が出る・・・ところまでわかっているのであれば、なにもしなければ現実になってしまいます。東日本大震災の教訓を活かしましょう。

危ない場所を避ける重要性とは?

首都直下地震が発生するからといって、東京全域が手の施しようがないほど危険度が高いわけではありません。例えば、東京都都市整備局 地震に関する地域危険度測定調査は、建物の倒壊と火災による延焼の2つの要素から総合的な危険度を記しています。

首都直下地震が発生すれば東京が危なくなるのは確かですが、その危険度(危なさ)によって防災・減災にかかるコストは大きく差が出てきます

『コスト』という言葉だとなんだか事務的な雰囲気が出ますが、コスト抜きで話を通してしまうと誰かが大きな負担を強いられ、行き詰まりやすくなります。住民1人の避難を呼びかけるだけでも人手が必要なのです。

自宅の耐震化や防災グッズを充実させるよりも、危ない場所を可能な限り避けていくほうが安心・安全につながりやすい要因として、自宅がどれだけ災害に耐えきったとしても『自宅周辺の危なさ』までは改善できないためです。

自治体もこの点は苦慮していて、住宅密集地の不燃化率を5年10年といった期間を経て、1%ずつ積み上げてるような状況です。

危ない場所を避けるという動きは企業にも徐々に出てきています。

まだまだ事例は少ないですが、食酢大手のミツカングループのように工場の移転は南海トラフ巨大地震を意識されており、

南海トラフ巨大地震で浸水被害が想定される中部工場(愛知県高浜市)は新工場の稼働と同時に閉鎖。地盤が強固な内陸部への拠点移設を機に生産能力も高める。
日本経済新聞 ミツカン、岐阜県に新工場 巨大地震備え内陸移転

年単位に渡るコロナ禍もあり、企業(個人事業主、非営利法人なども含む)の首都圏外への本社移転が過去最多ペースとなりました。

新型コロナウイルスの感染拡大、緊急事態宣言の発出などにより、本社機能や主要拠点が首都圏に集中することの脆弱性が改めて認知されたことで、本社など主要拠点を地方に移転・分散する動きが進んでいる
帝国データバンク 首都圏・本社移転動向調査(2021年1-6月間速報)(※PDF)

下記ページでもまとめておりますが、『危ない場所を避ける』という事は、防災・減災により取り組みやすくする重要な要素です。

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特に、賃貸物件でなく新築物件の購入といったような決断をする際には、引っ越しもしにくくなりますのでご注意ください。