防災・減災ガイド

土砂災害にはどんな対策が必要?土砂災害(特別)警戒区域で住むとどれくらい危険なのか?

土砂災害対策の基本的な考え方

一般市民の土砂災害対策はソフト対策がメイン

土砂災害への対策には、大きく分けてハード対策とソフト対策の2つがあります。

ハード対策とは、土砂災害が発生したときに土砂を食い止めて被害の拡大を抑える施設の整備などを指します。下記の動画は広島県が設置した砂防ダムですが、こういった土砂災害による被害を直接抑え込むような工事等がハード対策となります。

ソフト対策は土砂災害のリスクを調査してハザードマップに反映したり、市民への防災意識向上などを目的としたものになります。

一般市民である私たちが砂防ダムを設置することはできないので、行政側のソフト対策と連携して被害を未然に防げるよう早期避難を行ったり、土砂災害が発生しても被害を軽減できるように取り組むことがメインとなります。

土砂災害(特別)警戒区域の危険性はどれくらいか?

一般市民である私たちが取り組める土砂災害対策は、主に早期避難などのソフト対策であり、土砂災害によって引き起こされる力(災害外力)を直接和らげるようなことができません。避難が遅れてしまうと命取りになります。

特に、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)・土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は土砂災害防止法に基づいて、特に素早い避難体制が求められている地域です

主要な豪雨災害の犠牲者のうち7~9割は危険箇所で発生

河川技術論文集『発生場所から見た平成27年9月関東・東北豪雨災害による犠牲者の特徴(※PDF)』の牛山 素行氏らの調査では土砂災害・洪水災害による犠牲者の居住位置と、危険箇所の関係性について記されています。

結論として、犠牲者の7~9割といった非常に高い割合で危険箇所、またはその近辺で犠牲者の発生位置が一致していました。

2004年~2014年の主要な豪雨災害による犠牲者の72%が危険箇所の範囲内に位置し、危険箇所の周辺も含めていくと、その割合は実に87%まで上昇します。

このように、土砂災害(特別)警戒区域に指定された地域は、居住禁止こそされてはいないものの、そのリスクは大きく、行政側からも住居の移転や改修工事の支援を行い、より安全な地域へ移り住むことを促しているほどです。

行政側の支援はさすがに移転費用の全額補助までは行っておらず、移転や改修の決断が手軽にできるほどではないため、しばらく住み続ける決断をするとしても一連の避難行動がスムーズに進められるか実践しておきましょう。

  • すばやく避難できるよう普段から準備しておく
  • 複数の避難先、避難経路を検討しておく
  • 避難先に出向き、避難途中で被災しにくいか確かめておく
  • 夜間や降雨時でも避難行動がしやすいか確かめておく
  • 2階以上で寝るなど、垂直避難しやすくしておく
  • 土砂災害の発生が差し迫る前に余裕もって避難する

下記は広島市を襲った土砂災害の産経新聞社の記録映像ですが、土砂災害が発生した後では対応できることは限らています。

土砂災害はその性質上、豪雨災害などと一緒に発生することが多いため、強い雨が降り出してからの行動では、避難に時間が掛かって避難途中で被災したり、避難先へたどり着けなくなる状況が起きやすくなります。

土砂災害(特別)警戒区域に住んでる方はどうするか?

根本的に土砂災害の課題を解決するには、より安全な場所へ移転するしかありません。

また、土砂災害(特別)警戒区域に住んでいても、自治体側による対策工事が進んでいるかどうかによってもリスクの度合いは変わってきます

上記の動画のように斜面を補強したり土砂の荷重を支える擁壁の設置が進んでいる地域と、そうでない地域では被害の出方にも差が出てきます。

ただし、土砂災害対策の工事が進むことで市民が『逆に安心して避難してくれない』という別の問題も出やすくなります。これは立派な堤防を作れば『津波も大丈夫』『洪水なんて起きない』という過剰な安心感を市民側がもちやすくなってしまうためです。

土砂災害が発生しにくくなるのは良いことなのですが、対策工事など高いコストを払ってるのにあえて危険な場所に住み続ける状況は、市民と自治体の双方にとってあまり好ましいとはいえません。

土砂災害の対策工事を行っても費用対効果が悪くなりがち

現状、移転しないで土砂災害(特別)警戒区域内で安全性を高めつつ住み続けるには、早期避難で被災する確率を下げるしかありません。

土砂災害発生時の自宅へのダメージを抑えるには、自宅周辺へ擁壁設置といった個人にとっては大掛かりな工事が必要です。工事費用は少なくとも水回り全般のリフォームが出来てしまうくらいの出費イメージとなります。

しかし、そこまでやっても、崩落しそうな斜面全体をカバーするような自治体の土砂災害対策工事には届かないため、おのずと、対抗できる土砂災害の規模も限られてくるという問題が残ったままになる事を踏まえて決断していく必要があります。

土砂災害の発生ペースはさらに加速する可能性がある

近年、「春と秋がなくて、猛暑か寒波みたいな気候」「雨が降るときは大量で、降らないと渇水で水不足」といった極端な天気が発生しやすくなっています。

実は、気象庁ではこういった気候を『極端現象』として1976年から記録し続けており、水害が発生しやすい1時間降水量50mm以上の発生頻度が上昇し続けていることがわかります。

極端現象とは、極端な高温/低温や強い雨など、特定の指標を越える現象のことを指します。具体的には、日最高気温が35℃以上の日(猛暑日)や1時間降水量が50mm以上の強い雨などです。
気象庁|大雨や猛暑日など(極端現象)の長期変化

森林は膨大な雨水を受け止める役割もしていますが、極端現象に記録されるほどの豪雨が立て続けに発生すると森林への雨水浸透が追いつかず、土砂災害も発生しやすくなります。

行政による土砂災害対策への支援と課題

行政による市民に向けた土砂災害対策への支援(公助の一つ)として、土砂災害特別警戒区域に設定された地域では国・地方自治体から移転・改修工事などに関する支援があります。

住宅金融支援機構の融資

地すべりや急傾斜地の崩壊などにより被害を受ける恐れがあるなどの理由や宅地を土砂の流出などによる災害から守るための工事を行うよう、地方自治体から勧告などを受けた方が、家屋の移転または改修に必要な資金に対する融資です。主に土砂災害特別警戒区域内に居住している方が対象となります。

住宅金融支援機構による『宅地防災工事資金融資』

住宅金融支援機構による『宅地防災工事資金融資』

がけ地近接等危険住宅移転事業

がけ地近接等危険区域に設定された地域の居住者が、安全な地域へと移転する際に支援がなされます。「がけ地」とありますが、別に崖の下に自宅が建っていなくても支援の対象になる場合があります

支援が受けられる可能性がある地域
  • 自治体の『条例』により建築制限がある
  • 土砂災害特別警戒区域
  • 土砂災害特別警戒区域に設定される可能性がある
  • 急傾斜地崩壊危険区域
  • 災害救助法の適用を受けた地域
  • 過去に災害救助法の適用を受けた地域

支援内容も自治体によって異なっており、既存住宅の撤去費用、土地の造成費用、移転先住居の金融機関への利息相当分、仮住居費など様々です。

手続きを行う前に移転先の工事に着手していたり、金融機関への返済をもう始めていたりすると支援が除外される場合があるので、移転を検討される方は早めに自治体の窓口へ相談しておきましょう。

土砂災害対策改修促進事業による補助

土砂災害特別警戒区域にお住まいで、土砂災害対策の改修工事として擁壁(ようへき:土砂の荷重に抵抗できるような丈夫なコンクリート製の壁です)の設置などを支援するものです。

土砂災害に対抗するためブロック塀とは比較にならないほど強固な壁を作るため、その工事費用は規模や作りによって異なりますが、数百万円の費用がかかる場合があります。

改修工事の補助額の一例としては上限75~77万円程度、または工事経費の23%程度の支援がなされます。自治体によっては耐震診断など他の防災・減災に関する取り組みも含めることが可能になっています。

自治体が抱える土砂災害対策の課題とは?

土砂災害の被害を直接抑え込むことができるハード対策を片っ端から進めていけば、市民が土砂災害を心配する日を大幅に減らせるかもしれません。

しかしながら、各自治体は多くの課題を抱えています。

例えば、砂防事業にかかるコスト・・・。

土砂災害警戒区域に設定された地域は日本全国で約53万箇所あるのですが、何十年という年月をかけて整備率は2割程度です。特に地域の人口減少や産業の衰退が著しい自治体では、工事がストップしてしまっているケースもあるでしょう。

下記は愛知県のニュースですが、水道整備も地域に見合った規模へと調整する話が出てきました。愛知県でも町の隅々まで整備していく余裕はなくなってきています

産業都市のイメージが強い豊田市だが、2005年の合併で広い中山間地を抱え、実は市域の7割を森林が占める。これまではたとえ山の上でも、「給水」の申し込みがあれば、断れなかった。「住民の要望に応えるため1000万円かけてわざわざ市で井戸を掘った」。こんな半ば苦い経験もしている。「そこまでコストをかける必要があるのか」というのが、豊田市の将来を見据えた際の自問。上のようなケースが続けば「早晩、破綻する」と担当者の危機感は募る。水道事業はそもそも独立採算制、利用者から集めた料金で成り立っているからだ。
水道広げず、橋は壊す…トヨタ膝元でも進む「街を畳む」選択:日経ビジネス電子版

財政が厳しい自治体は土砂災害のハード対策どころか、災害で被災した上下水道・電気・ガスといったインフラの復旧活動すら難しくなってくるでしょう。

また、コストだけでなく少子高齢化が進行していけば、避難の支援が必要となってくる災害弱者も増えていき、避難に時間を要したり、防災情報をうまく活用できないなど、ソフト対策にも影響が出てきます。

自治体側の土砂災害へのソフト対策・ハード対策は今すぐ効果がでるものではありませんし、市民にとっても自治体の土砂災害への対策待ちになってしまう状況も減災への解決にはなりませんし、まずは、基本に立ち返り、自助の力から高めていきましょう。