防災・減災ガイド

防災グッズにテントは必要か?キャンプの趣味がない人はどんな基準で導入を判断すべきか

テントは防災グッズに必要か?不要か?

今まで防災グッズとしては必要性が低そうだったテント。

しかし、震度7が2連続発生した熊本地震や、極端に被災範囲が拡大した東日本大震災、三密を防ごうと対策に追われた新型コロナウイルス感染症・・・と、災害への新たな対応が増えていきました

とはいえ、いきなりテントをポンと買ったところで使いこなせないのも課題ですし、テント以外のアウトドア用品も必要となってきます。それらを踏まえて、防災グッズの一つとしてテントが必要かどうかの判断軸を紹介いたします。

災害で自宅が使用不可能ならばどこで生活するか?

災害によって自宅での避難生活が一時的に困難となった場合、どこが生活の拠点となるのかは主に次の5つの候補に集約されることが多いです。

  • テント
  • 実家、親戚、知人宅
  • 宿泊施設、賃貸物件
  • 避難所

これらは、生き延びるために高台などへ一時的に避難した場所ではなく、その後の避難生活場所となります。

熊本地震や東日本大震災の被災者への調査でも、自宅の近く、公園、山間部、駐車場、商業施設、神社やお寺、病院、工業団地空き地、福祉施設など場所に違いはあっても避難生活先としては前述の主に5つに分類できます。

なお、仮設住宅は災害が発生したあとに工事が進むので実際の入居には発災から2~4週間と時間がかかり、災害直後の避難生活先には利用できません

災害時にテントが必要なのはどんな場合?

避難所での生活に対する不安感が強い

避難所での生活はお世辞にも快適とは言えません。

下記は2018年の西日本豪雨、岡山県倉敷市で開設された避難所の様子をKSB瀬戸内海放送が報じたものです。

映像には間仕切りやダンボールベッドが確認できます。

が、、、これはまだ全然マシなほうで、災害規模、避難者数、避難所の備え具合などによって避難所生活の状況は大きく変化してきます。

次の写真は1995年の阪神淡路大震災。こちらも同じ『避難所』ですが1人あたりのスペースが手狭で、間仕切りやダンボールベッドもありません。これは阪神淡路大震災から30年近く経過する現在でも解決仕切れていない問題でもあります。

小さなお子さんがいたり、家族の一員としてペットを迎え入れている方は周囲にも気を遣う機会が増えてしまう等さらにストレスを感じるかもしれません。

こういった実情を踏まえ、例え短期間の野営でもしっかりとしたプライベートな空間を用意したい場合はテント導入も解決策の一つです。

東京周辺に住んでいて避難所不足が心配

東京周辺は人口が多すぎて避難所が不足しています。

具体的には首都直下型地震が発生した場合、内閣府の資料(※PDF)では東京都区部の避難所だけでも約60万人分不足しています。60万人と言えば東京ドーム10~11個分を観客で埋め尽くすほどのボリュームです。

この避難所不足について、首都直下地震避難対策等専門調査会報告(※PDF)の『避難所不足に係る対策』には、テント等の利用拡大も盛り込まれています

避難者で避難所が過密になった状況として、2019年の台風19号により多摩川周辺で水害が発生、東京都狛江市の避難所をTBSが報じたものが参考になります。

首都直下型地震だとさらに約650万人の帰宅困難者(従業員、観光客、学生 etc.)が東京周辺に取り残されることとなり、各避難所へ流入すればそれだけ混乱も拡大します。

大きな地震でなくとも避難所が溢れやすい東京周辺の分散避難方法の一つとして、テント泊も検討に入れておくと良いでしょう。

ハザードマップでの被害想定が許容範囲である

そもそも「どこまでを許容範囲とするか?」ですが、ここでは自宅が使用不可能になる期間が一時的で済むかどうか、としています。

過去の災害で避難所へ身を寄せた方も、東日本大震災の避難所生活者数の推移について(※PDF)を参考にすると1~2週間程度で自宅などへ戻られています。自宅の復旧もなんとか目途がついた方も多かった方々でしょう。

ハザードマップで自宅周辺を確認した時、例えば豪雨災害で自宅周辺の浸水深が0.5~1.0mだったとしましょう。そして自宅が平屋建て(1階建て)で、自宅が床上浸水した場合は浸水した水が引くまでは自宅が使用できません。

ハザードマップポータルサイト 国土交通省
https://disaportal.gsi.go.jp/

しかし、津波のように家ごと流されるわけではないので居住空間は泥だらけかもしれませんが、電気・ガス・上下水道などのインフラ復旧が進み、二次災害のリスクが低下すれば復旧活動には取りかかれます。

「ハザードマップ以上の被害が出たらどうしよう!」という不安については、災害に対する方針次第のところが大きく、ベストな解決策は人によって異なってきます。

自宅の耐震性が一定以上あり、全壊リスクが低い

建物が全壊するほど老朽化している or 耐震性がない場合はテントで避難生活の計画を立てるよりも、建物ごと命を落としてしまう事にならぬよう別の対策が必要です。

あくまでテントでの避難生活は、生き延びたあとに役立つものです

耐震性の正確な判断は耐震診断を受けるしかないのですが、セルフチェックとして下記のようシートもありますのでご参考ください。

誰でもできるわが家の耐震診断(※PDF)
一般財団法人 日本建築防災協会

専門業者による耐震診断は10~20万円、自治体から補助を受けられる場合もあり事前に申請して手続きすることで診断費用の1/2や1/3程度を節約することが可能です。

ただ、国民生活センター自治体も呼びかけているように、無料耐震診断から高額の工事費用へとつながるトラブルも寄せられていますのでご注意ください。

建物が災害で損傷しても1階が完全に押しつぶされるような可能性が低ければ、テント泊での避難生活後、自宅に戻って復旧活動に戻ることができます。

孤立化のリスクが高い地域に住んでいる

ここでいう孤立化とは公的な支援を受けにくい状況を指します。

具体的には道路や橋が損傷して被災地から移動できなくなったり、通信手段を失って外部へ助けを求めることができなくなったりします。

上記は2016年の熊本地震で橋が崩落、南阿蘇村から救助する様子をANNが報じたものです。映像には映っていませんが避難所などにも約1000人の孤立しました。

また、2004年の新潟県中越地震、北陸地方整備局 新潟県中越地震 北陸地方整備局のこの1年によれば、7市町村61もの集落が孤立しました。

孤立化リスクは山間部のような地域ほど発生しやすいですが、東日本大震災のように大きな災害になるほど救助する側も人手不足で災害現場へ向かえません

南海トラフ巨大地震の備えとして、備蓄を3日でなく1週間分以上に引き上げたのも、その被害があまりに大きすぎた・・・という背景があります。

孤立化の対策は必要となる資機材や備蓄量も増えていくため、手が出しにくいところもありますが公的な支援が届くまで自助力を高めておきましょう。

コロナ禍の終息後も感染症対策を強化したい

新型コロナウイルス感染症で避難所の1人あたりのスペースが強制的に拡張されました。

スペースが広がること自体は良いのですが、その結果、東京ほど人口が集中する地域でなくとも避難所不足が続出することとなりました。

自治体が6日の日中までに開設した避難所では、新型コロナウイルスの感染防止対策との兼ね合いで「定員オーバー」が相次ぎ、増設に追われるなど新たな課題も浮かび上がった。~(中略)~長崎市では260カ所(定員2万7千人)の避難所を設け、ピーク時で1万2107人が集まった。余裕はあったものの、特定の場所に希望が殺到して49カ所で満員に。山口典昭危機管理監は「これだけの避難所で満員は初めて」と驚く。
避難所「定員オーバー」相次ぐ コロナ禍、新たな課題

しかし、その一方で感染症対策が体調管理を改善させた側面もありました。

手洗い、うがい、アルコール消毒、マスク着用、換気を意識した生活によって風邪にかかる人々が少なくなり、風邪薬の売上が落ち込んだほどです。

新型コロナウイルスの感染対策により、一般用医薬品(大衆薬)の総合感冒薬の売れ行きが低迷している。インテージヘルスケア(東京・千代田)によると、2020年の総合感冒薬の販売額は787億円だった。同社が大衆薬の市場調査を始めた1996年以来、最低額となった。
風邪薬の販売額最低に、コロナ対策で 2020年一般向け

災害時は水道水の確保もままならず、避難所での良好な衛生状況を確保したくても難しくなります。

避難生活で体調を崩しにくくするためにも、個室を創り出せるテント泊や車中泊は衛生環境の改善に貢献します。

トイレ、授乳、身体拭き、着替えの空間が欲しい

テントは野営するだけでなくプライベートな空間を確保する目的でも有効です

活用事例として群馬県高崎市内で上信電鉄が立ち往生した際に、消防署の協力で車両へ簡易トイレが設置されました。この電車はトイレがないタイプです。

もし、これがテントがなかった場合や、資機材を持つ消防署の協力がなかったらどうなっていたでしょうか?

簡易トイレがあったとしてもポンチョだけ被って用を足すという事は、お尻こそ丸見えにはなりませんが、遮蔽物がなく視線が通ったままです。携帯トイレを用意しても、実際に使うとなるとなかなか場所に困るでしょう。

テントには光があたると中の様子がうっすら透けるタイプと、中の様子がわからない遮光性に優れたタイプの両方がありますので、防災用には後者の仕様をおすすめします。

もし、テント生地が透けるタイプしかなくても、大きめの遮光シートを別途用意することでも、同様の効果が得られます(覆うために多少手間取るかもしれませんが)。

避難所にテントの持ち込みはできるのか?

多くの自治体がテント泊や車中泊避難に対応中です

平成28年度避難所における被災者支援に関する事例等報告書(※PDF)によれば、熊本地震以後の全国自治体1634箇所に対する2016年の調査で、「テント泊・車中泊の避難者を想定するかどうか」という点について、45.2%が想定されていました

まだ想定されていない自治体も対応可能な施設不足やテントの備蓄について課題をあげられていましたが、2019年のコロナ禍以後は感染症対策のためにテント泊避難の対応はさらに加速しただろうと思われます。

テント泊や車中泊の対応については自治体もまだ道半ばですが、避難所運営マニュアルにも加筆・更新がなされているのが確認できます。

対応状況については各自治体の公式サイトで確認したり、窓口ならば危機管理課や防災課の職員さんに予め対応できている避難所を確認すると良いでしょう。

避難所へいきなり持ち込んでも避難所の運営に支障がでますから、災害当日の急な持ち込みには注意しましょう(一時避難所と宿泊可能避難所などと施設をわけている事もあります)

テント泊の避難生活にはどんな欠点があるか?

プライベートな空間が設けられるだけでも大きなメリットですが、もちろん欠点はあります。設営時の欠点としては次のようなものがあります。

  • 雨や風といった悪天候への対策が困難
  • 自宅ほどの防犯対策ができない
  • 適切な設営場所がすぐ近くにあるとは限らない
  • 夏場・冬場は避難所と同様に寒暖差が厳しい

多少の風雨自体に耐えるテントはありますが、テントへ浸水してくるような場所や、台風による猛烈な風は飛来物の可能性も含めて危険です。

実際、熊本地震でも梅雨のシーズンに入り、体育館も空いたタイミングでテントを撤収する一面もありました。

熊本地震 益城町の様子をANNが報じた記録映像からも、風雨が強まる中でのテント設営の苦しさが確認できます。

床下からの浸水問題についてはボランティアの支援もあり、下記のように建築資材を組み合わせて高床とすることで浸水対策したテントも見られます。

防犯面に関しては避難者同士が固まって設営することでかなり軽減されるでしょう。

特に熊本地震の事例のように自治体が管理する範囲であれば、ボランティア、医療機関、警察、消防署、自衛隊などとも連携しやすくなります。

避難所も単に設営して終わりでなく避難所運営の一環として、消防団、警察OB、各種ボランティア団体に所属される方々が夜間パトロール支援することもあります。

欠点も1つ1つ解決するにはどうすれば考え尽くせば、妥協点や解決策が見つかるはずです。